3ー3.無職受験生の一日


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 俺みたいに金を節約してでも自分のやりたいことをやって遊んでる奴は少数派だろう。普通は無職野郎でもちゃんと学校くらいは行ってるもんだ。俺も無職受験生の典型みたいな生活をしばらくしてたこともある。そこでその生活を俯瞰してみよう。

 

 まず、朝であるが、合格しそうな奴は大体、非常に朝が早い。俺の知ってる奴で一発合格したのがいるが、彼は毎日7時くらいには学校に着き、そこから勉強を開始していた。俺もしばらく真似をしていたが、ネットで麻雀にハマってからはそんなことはできなくなったもんだ。

 

 ま、とにかく、俺の場合、朝7時に学校につくには朝5時台に起きる必要がある。俺は漁村で育ってせいもあって、朝早いのは普通の人々に比べて苦しくはなかったんだ。だから、結構早く行ってた。でも、早く行ったからといって俺の場合、学校の近くのベンチでタバコを吸って授業の開始を待ってたりしてたことが多く、あんま勉強してなかったということも付け加えておこう。もちろん、3日にいっぺんくらいはちゃんと勉強してたがね。

 

 そして普通は10時くらいまでに簿記やら原価計算やらの計算問題をやっとくもんだ。最低1問くらいはな。そいでもって、10時から授業を受ける。普通1時くらいまで授業があったりするから、朝から1時までは勉強したといっていいだろう。

 

 そいで1時に授業が終わると普通は楽しい飯タイムだ。受験生同士ツルんで近くの安い定食屋なんかで憩いの時を過ごす。このとき普通は年齢や趣味、嗜好が似たような連中がツルんで場合が多く、合格しそうな奴の場合、大抵少しは勉強に関係のある話題となる。講師の評価で盛り上がる場合もあれば、昨日ナンパした女の話題になることもある。まあ、本当に仕事をしていないということは素晴らしいことだ、と感じさせてくれるひとときだ。

 

 もっと合格しそうな奴の場合は、昼も孤独に過ごすことになる。人と話なんぞしてる暇があったら、得意の速攻で飯を終了させ、15分後には勉強を再開している。こういう人は俺みたいな野郎からは、変態のように映るもんだが、まあ、目的に向かってまっしぐらってんだから、まあよしとしとこう。世の中にはもっと変なのが沢山いるってことは忘れちゃいけない。

 

 俺の知ってる奴でそういう奴がいた。一言も人と話をしない。もち、講師へ質問するときはしゃべるが、それ以外一言もクチをきかないんだ。どうだ?すごいだろー。でも、しゃべってみると確かに変だったが、なかなか面白い奴だった、なんてこともあったりするから、人は見た目で判断しちゃいけないってこったな。ま、彼は「星人」と呼ばれ、われわれの間では「せいちゃん」などという愛称までついたくらいだったが。

 

 愛称といえば、全然話もしたことがねえのにニックネームがついてたりする場合があるから要注意だ。例えば、色が黒いだけで「黒人」という名称で呼ばれていた(ちなみにこれ、女性ね。)人を始めとして、バーバパパに似てるので「パパ」とか、見かけかっこいいから「ホスト君」とか、そりゃ普通の社会でもありがちな光景だ。

 

 このようなケースでは大体、おひれがつく。前述の「星人」などを例に取ると、

「彼が家に帰るの見たことある?」

「俺ないよ。」

「やはりそうか。多分彼は途中で母船に帰るんだろう。UFOの下から光が出てきて、それに吸い込まれるように帰るんだ。いや、絶対にそうだ。・・・」

とかね。

 

 そしてこのあと、普通は2時からまた授業があったりする。次は5時までだ。午前中の授業の復習もしないまま次の授業を受けることになる。まー、夜にまとめればいいかってんで普通は飯の時間をたっぷりとって授業に臨むこととなる。授業のない奴はといえば、真面目な奴は復習に余念がないし、俺みたいなのはここから2、3時間、要するに次の授業が終わるまで、ずーっとダベったりするわけだ。

 

 たまに、よくしゃべる友達なんかが、「今日は俺、勉強するよ。」なんて言い出すと、俺も勉強してたなー。それにしても、この時間帯は飯の直後なんで眠いから、あんまり効率的によくない。俺なんかはよく外でタバコを吸って景色を眺めたりしてたもんだ。でも、この辺でちょっと勉強しとかないと、午前中の授業なんか何やったのかわかんなくなっちまうから要注意だ。

 

 さて、いよいよ受験生の一日も佳境にさしかかる。夕日が照ってくる5時くらいになると、午後の授業を取ってた連中がゾロゾロと講義室から出てくる。そこでまた知り合いにあったりすると、「晩飯でも行くか?」みたいな話になって、せっかく2時間くらい勉強してノってきたところなのにもかかわらず突然打ち切り、晩飯タイムとなる。俺は夜の授業なんかはあんまり好きじゃないから取ってなかったんで、授業はここで終わりなわけだ。

 

 晩飯を一緒に食ってると「今日もよく勉強したなぁ。」なんて気になってきて、もう自習室へ戻る気力も失せてくるが、ここで我慢して戻る勇気が必要だ。はっきりいって勉強なんか全然してないだろ?だが、俺はこれまた3回に1回くらいは夜の9時くらいまでダベってて、自習室には荷物が置きっぱなしになったままだった。夜の9時半くらいになると大体自習室も閉まる。そうすると強制的にみんな家路に付くことになる。

 

 中にはここから近くの居酒屋に消える奴もいるわけだが、それはちょっとやりすぎだろう。っていうか、俺はただ金がなかったから家に帰ってただけなんだけどさ!まあ夜の9時30分くらいに水道橋の駅に行くと、野球がないにも関わらず、リュックをしょった変な連中がうじゃうじゃいたりするから一度見学してみるといい。彼らこそ、リュックだけじゃなくて、明日の日本の会計まで背負っている若者たちだってわけだ。

 

 ここから俺なんか途中の駅で知り合いと別れ、一人になったところで電車内で勉強をしたりしたこともある。ウォークマンなんか聞きながら勉強してるとこれがまたなかなかイケる。あっという間に家についちまう。帰りにコンビニなんかでジュースかなんか買って帰るってわけだ。

 

 そうして、受験生の一日は終了するかに見えるが、人によってはここからまた勉強なんてケースもある。俺なんかも家に帰ってから勉強するケースが多かったなぁ。何しろ見たい資料がすぐ見れるから俺に取っちゃ最適だったぜ。

 

 んでもって、12時くらいには就寝。それでまた次の日も朝6時前に起きて通学となる。こんな生活はまあ、1ヶ月くらいならいいんだが、先はいつ終わるかわからないほど長い。っていうか本当に先は見えないってんだから、なかなか大変なもんだ。

 

 ちなみに夏なんかは俺は電気代がもったいないから、毎日扇風機で過ごしていた。夜は特に暑くて眠れないなんてこともあったが、水風呂を作ってつかったりして、なんとかしのいでいたぜ。まあ、こんなことまでしなきゃならんことは覚悟しといたほうがいいね。

 

 もちろん、こんな生活を1週間に7日ともやってるわけじゃあない。俺は調子のいいときは1ヶ月に1日くらいの休みを取るだけでよかったが、普通は週に2日くらいは休みがほしいところだ。なんて言ってると負け組に入ったちゃうんだけどさ。まあ、週1日くらい全く勉強しない日があっても、無職野郎は時間がありあまってるから、全然気にする必要はない。学生や社会人だったら時間に余裕がないので、休みの日こそ勉強しなきゃならんのだが、ここらへんは収入を犠牲にしている無職野郎のいいところだ。金がない分時間は十分に有意義に使おうや。

 


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2000.7.15